2012年7月31日火曜日

リウマチ治療のT2T

今日は横浜ミナトミライでリウマチの講演会でした。演者は国立相模原病院の先生で、神奈川ではもう関節リウマチではお馴染みの先生。比較的話がお上手で、よく整理された話をするので、自分としてはお話を聞くのが楽しみな先生です。

今夜のキーワードはT2T。てぃーつーてぃー、と読みます。正式にはTreat to Target。ちょっと聞くと何のことやらと思うのですが、目標を設定して治療をするという意味。

漠然と治療するのではなく、ある一定の目標を達成するために、より強力な治療を行っていくこと(Tight Control)が、リウマチ患者さんの寛解(ほぼ治癒した状態)の達成に必要であると世界的に言われており、それに向けてのキーワードです。

リウマチ治療におけるT2Tは、もう数年前から言われ始めています。最近は、いよいよ患者さんにも向けて啓蒙活動が始まっており、自分たちもある程度実践していく必要に迫られてきました。

どうも、最近の医学会はこういうインパクトのあるキーワードが大好きで、一度決めると正義を振りかざすが如くに一斉にそこに向かっていく傾向があります。そういうところに、多少の疑問を感じないわけにはいかないのですが、自分も実際そういう世界にどっぷりと浸かっているところがあったりするんですね。

T2Tには、基本的な4つの考え方があります。
1. 治療は患者とリウマチ医が共に決めるべきです
2. もっとも重要な治療のゴールは長期にわたって生活の質(QOL)をよい状態に保つことです
3. 治療のゴールを達成するためにもっとも重要な方法は、関節の炎症を止めることです
4. 明確な目標に向けて疾患活動性をコントロールする治療は、関節リウマチにもっとも良い結果をもたらします。それは、疾患活動性をチェックし、目標が達成されない場合に、治療を見直すことによって可能となります

さらに目標達成に向けた治療のために、細かい10項目が設定されています。それらを書き出すのは大変なので、興味のある方はちょっとネットを検索していただければ、簡単に見つけられると思います。

とにかく、20世紀末にはまったく思いつきもしなかった、関節リウマチを「治す」ということが、最近は現実味を帯びてきたことが、このような考え方の原点にあるわけで、もうすごい変化としか言いようがありません。

もちろん今でも、「関節リウマチは治ります」と説明することはできません。いまだに寛解という言葉を使っているところにリウマチ医のジレンマが端的にあらわれています。寛解という言葉は、ほぼ治っているけど再発するかもしれませんという意味が含まれています。

がんの治療には5年生存率というような言葉がありますが、治療終了してから患者さんが5年以上生きていれば完全に治癒と考え、医学の勝利ということになります。

リウマチ治療においても、次のステップで完全に治癒と言える状態を達成することができるのかもしれません。 例えば5年間寛解状態を達成すれば完全な治癒としてよい、というようなことになるかもしれないのです。

どうせこの世界に入り込んだからには、そこまでは少なくとも現役を続けていたいものだと思います。それだけ日進月歩の激しい分野だからこそ、興味が尽きないくて勉強のしがいがあるというものです。